加藤弓奈 ディレクション
劇場で、あるいは他の特別な会場や空間で作品を観るとき、私は「ひとり」であることを強く意識します。誰かと一緒に出かけていても、客席に座り、深呼吸をして、作品が始まるのを待つ瞬間、「ひとり」であることを感じます。
それは、孤独といったものではありません。期待や不安や緊張や興奮が、客席や会場全体を覆う中、作品へ対峙する自分を再認識します。演劇や舞台芸術は決してひとりでは創れません。それは日々の生活も同じでしょう。でもあえて、今回のディレクションでは舞台上に「ひとり」しかいない作品を選んでみました。
その「ひとり」から複数の人物・存在・状況がみえてきます。豊かな言葉や、雄弁な身体。
パフォーマーとあなた自身の1対1の時間を感じてください。贅沢で濃密な時間になるはずです。そしてそれは、自分と社会の距離感を改めて問い直す時間になるでしょう。
加藤弓奈
(急な坂スタジオディレクター)
早稲田大学第一文学部演劇映像専修卒。在学中からインターン生として横浜の小劇場「STスポット」で制作アシスタントを務 め、卒業と同時に就職。2006年、育成型の稽古場施設「急な坂スタジオ」の立ち上げに参加。 2010年4月、ディレクターに就任。以降、若手アーティストの創造活動をサポートするプログラムに取り組む 。