中島那奈子 ディレクション
保存ではなく上演を目的としたダンスアーカイブを作家自ら作るというこのプロジェクトは、もともとシンガポールの演出家 オン・ケンセンの提案を受けて、2014年に日本のコンテンポラリーダンスのアーティストと共に始まったものです。このプロジェクトは、議論を重ねアーキビスト(☆)がアーカイブボックスを作成した第一期と、ユーザー(☆☆)となるアジアのアーティス トがアーカイブボックスをもとにするパフォーマンスをシンガポールで上演した第二期から構成されました。ダンスは、瞬時に生成して消滅する、身体の動きを扱います。それ故に、ダンスのアーカイブという問いは、ダンスとその歴史は誰に属するのかとい う所有を巡る問題を投げかけてきます。私はダンス・ドラマトゥルクとしてこの行程に寄り添いましたが、日本でこのプロジェクトを上演するにあたって、過去のダンスの遺産をどう考えるかという問いを、「老いと踊り」というテーマと重ねて、新たに立て 直す必要性を感じました。そこで今回は、東南・南アジアからの若手、中堅アーティストに加え、日本の伝統芸能からも、ボック スを受け取ってパフォーマンスを行うユーザーを招いています。この度のプレゼンテーションは、アーキビストとユーザーのパフ ォーマンス+ダイアローグ、ダンスアーカイブボックスプロジェクトの展示、ダンスのアーカイブと老いを巡るシンポジウムの三部から、構成されます。
☆アーキビストとは、自らの作品をアーカイブし、アーカイブボックスを作った人で、第一期では伊藤千枝、黒田育世、白井 剛、鈴木ユキオ、手塚夏子、矢内原美邦、山下残の七人。
☆☆ユーザーとは、アーカイブボックスを受け取りパフォーマンスを行った人で、第二期ではラニ・ナイル、パドミニ・チェター 、チェイ・チャンケトヤ、プリティ・アトレーヤ、ヴェヌーリ・ペレラ、マーギー・メドリン、マンディープ・ライキーの七人。
中島那奈子
(ダンス・ドラマトゥルク/ダンス研究)
ベルリン自由大学フェローとして、老いと踊りの研究に従事する。ダンス・ドラマトゥルク、日本舞踊宗家藤間流師範 藤間 勘那恵。愛知大学等で教鞭をとる。ドラマトゥルギーにLuciana Achugar「Exhausting Love at Danspace Project」(2006年度NYベッシー賞)、砂連尾理「劇団ティクバ+循環プロジェクト」他。ベルリンと東京でシンポジウム『The Aging Body in Dance/ 老いと踊り』を開催。共著にDance Dramaturgy: Modes of Agency, Awareness and Engagement (Palgrave, 2015) 他。