コ・ジュヨン ディレクション
韓国や他のアジアの国々では、複雑な理由で伝統や歴史と現代社会が劇的に分離されているということが少なくない。皮肉なことに、あるいは当然なこととも言えるが、分離された分、伝統や歴史について考える義務や、ある種の強迫がしつこく存在している。
今回のアーティストは、現代社会における資本の高度化、歴史の後退、ますます巧妙になってきている支配システムへの「亀裂」をとらえて舞台化している。
2つの作品がそれぞれ題材にしている「過去」は、韓国の代表的な伝統芸能であるパンソリ、70年代労働運動の現場で作られた歌劇(ノレグック)、という「過去」は各々違う年代に生まれたものであるが、現代に存在している「亀裂」がその「過去」から繋がっているということで共通している。
同時代と向き合う観点や態度というものが「同時代舞台芸術」の重要な部分であると考えている。今、足をつけている場所を見つめ、「亀裂」を見いだすという、不穏だけど芯があり、かつ「コンテンポラリーアート」の恵みである舞台表現の自由さを謳歌している韓国の演劇作品を紹介したい。
コ・ジュヨン
(インディペンデント・舞台芸術プロデューサー)
1999年からソウルフリンジフェスティバルなどいくつかの舞台芸術フェスティバル事務局を経て、2006年からコレア・アーツ マネジメント・サービスで勤め、2012年退職後から舞台芸術のインディペンデントプロデューサーとして韓国や日本のアーティストの作品制作に携わっている。