主催者挨拶
TPAMがアジアにフォーカスします。
国際交流基金は昨年4月、アジアセンターを新設しました。「人と人とをつなげ、ネットワークを拡げて深め、アジアの文化をともにつくる」をコンセプトに、発足以来、演劇、音楽、美術、映像やスポーツから日本語教育、学術まで様々な分野で、アジアの中の交流と協働を進める活動を実施しています。
TPAMは、まさにこのアジアセンターのコンセプトを実現する機会です。国際交流基金はこれまで毎年、世界各国のプレゼンターを約20名ずつTPAMに招聘してきましたが、今回お招きする数はアジア諸国を中心に50人にものぼります。TPAMディレクションでは、日本、インドネシアやタイをはじめアジアの魅力的なコンテンポラリー・パフォーミング・アーツが紹介されます。将来的な共同制作を視野に入れ、アジアのアーティスト同士がインタビューし合う新企画、アジアン・アーティスト・インタビューにも今年から取り組み始めています。
新たな一歩を踏み出すTPAMが、互いの文化を知り合う機会として、また世界各地で舞台芸術に関わる人たちが語り合い、交流し、ネットワークを強める場として、更には新しい文化を生み出す協働に繋がる「アジアの舞台芸術プラットフォーム」として、しっかりと根付き、アジアとアジアが、アジアと世界が集う場となることを願っています。
安藤裕康
国際交流基金 理事長
私たちが主催団体として参画する「国際舞台芸術ミーティング」が横浜で開催されるようになり、今年で5回目となります。改めて、この催事を支えて下さる多くの皆さまのご尽力に深く感謝申し上げます。
芸術文化の分野におきましても、国際交流がいよいよ盛んになってきておりますが、特に近年はアジアとの相互交流にも注目が集まっております。今回のTPAMプログラムのなかでも新しいアジア文化交流を目指した作品が数多く取り上げられ、KAAT神奈川芸術劇場でも上演される予定です。「芸術の創造、人材の育成、賑わいの創出」というミッションを掲げる当劇場も、引き続き芸術文化を支える一翼を担っていけるように邁進してまいります。また、この催事が参加される皆様の芸術文化との新たな出会いと交流の場になることを心より願っております。
小枝至
公益財団法人神奈川芸術文化財団 理事長
横浜は常に「新しいもの」を生み出す風土があり、アートの実験的な試みの機会を提供し、世界に発信していく街です。当財団は、ここ横浜における総合的な芸術文化の振興を使命とし、豊かで魅力的な横浜をつくっていくことを目指しています。今年も、国際舞台芸術ミーティング in 横浜に、当財団が主催者として参画し、舞台芸術の国際的なプラットフォーム形成の一端を担うことができることを大変嬉しく思います。
横浜で5回目の開催となる今回は、近年大きな成長を遂げたアジアにフォーカスし、日本やアジアを中心に多くの若手アーティストの作品や国際共同制作作品の上演、各国の舞台芸術関係者が集うミーティングの場など、まさにアジアの舞台芸術のプラットフォームにふさわしい意欲的なプログラムが目白押しとなっています。「国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2015」が、国内外から集う多くの方にとって、たくさんの出会いの機会となり、舞台芸術分野における活発な交流の場となることを、心より願っております。
澄川喜一
公益財団法人横浜市芸術文化振興財団 理事長
開催に先立ちまして、ご参加下さいました皆様、関係者の皆様に事務局を代表しまして心より厚く御礼申し上げます。
国際舞台芸術ミーティング in 横浜(TPAM in Yokohama)は今回、アジアに焦点を絞りました。何故アジアかという説明をする前に今一度本催事についてご説明したいと思います。
TPAMはフェスティバルではなくミーティングでありプラットフォームです。前者には実施会場の近隣住民を中心とした観客全般に寄与する事が基本的に期待されますが、本催事は舞台芸術作品と観客を繋ぐ役割を負っている全ての皆様に活用して頂く事を主な目的としています。
ご紹介する作品について言えば、同時代性を重視しています。原理的には舞台芸術はそもそも同時代にしか存在し得ず、同時代的な作品と同時代的でない作品があるというのはレトリックに過ぎないかもしれませんが、既存の文化の保存のみを目的とする作品、商業的な成功を最優先にする作品は、それぞれに別の優れたサーキットが確立しているのでそれらと区別するため、そして現在の社会的現実を反映した、あるいはそれに応答する作品という意味で「同時代的」という言葉を用いています。また、その「同時代性」が国際的な意識と実践に繋がるものである事を強く期待しています。
TPAMはアジアに位置するプラットフォームのひとつとして、とりわけ遠方からお越し下さる参加者の皆様からは日本だけではなく近隣諸国の作品も同時に見たいという要望を長らく頂いておりました。また、国際的に繋がる機会を近隣諸国の舞台芸術関係者に開く事も求められていました(後者について言えば、アジアからご参加下さいます皆様に、他の地域で創作された作品を見る機会でもあるべきではあり、今後の課題のひとつです)。アジア域の作品がその他の地域と繋がるような機会の創出については、しかし、これまでは予算総額とその使用目的の整合性から実現できませんでした。今回、国際交流基金内に双方向の交流を目的としたアジアセンターが設立され、経済格差を乗り越えモビリティを確保すること、つまり渡航費や宿泊費などを負担してのキーパーソン招聘が相当規模で実現可能となりました事もご報告させて頂きます。
舞台芸術においてアジアに焦点をあてたプログラムが、国内外に格段に増えたことからもアジアに期待が寄せられているのが解りますが、これは中国やインドを始め各国が欧米を凌ぐ程の経済的な成長地域である事による訳であり、私たちTPAMがアジアに焦点をあてることが可能になったのはその事と無関係ではありません。それを背景に、今回TPAMでは新たに「TPAMコプロダクション」という企画を始めるとともにアジアに拠点をおくアーティストの作品を数多く紹介しています。
ご承知のようにこの共同製作=コプロダクションという仕組みは劇場やフェスティバルなどが予算や人材などの限られたリソースを最大限に活用するための仕組みとしてヨーロッパを中心に活用されている方法ですが、アジア地域ではあまり実現していません。この共同製作には各催事における作品の同質化を始め様々批判がありますが、アジア域では未だ国際的な協働というと、コラボレーションが優勢です。国際コラボレーションは概ねひとつの主催者が多国籍のアーティストやスタッフを組織する、一方、国際共同製作は多国籍の複数の主催者が協働してひとつの作品を作る仕組みです。その際、主催者の都合が最優先されずにアーティストがリードし新しい価値の創造に寄与できる仕組みになるよう注意を払う必要がありますが、経済のバランスや習慣を超え、製作する側が協働する事で、作品と観客を繋ぐ私たちに新たな発見や可能性を見い出す機会になり得るものです。
また、「TPAMディレクション」、「TPAMコプロダクション」参加のアーティストの日本以外の拠点としてはタイ、インドネシア、フィリピン、フランス、中国があり、作品自体は発表しませんが、マレーシア、シンガポール、ベルギーを拠点とするアーティストがプレゼンテーションを行います。これらアーティストの活動とその作品には、「非西洋的」な「優れた価値」があるというよりは、何か名状し難い、しかし決定的な、「新しさ」があるように思います。そして、それは単に古いものに対しての新しさ、西洋の行き詰まりに対するアジア的な可能性、総合芸術から脱中心化へ、合理主義や資本主義から何か別のものへの移行といったものではなく、私たちに価値の基準を作り直すことが迫られている、私たちがそのプロセスのただ中にあるということ自体と直結している新しさなのではないでしょうか。
「状況」の社会学的なドキュメントにとどまらず、新しい何かを見い出すアーティストとその作品を力強く支えて行く参加者の皆様の一助に本催事がなる事を祈念して、挨拶に代えさせていだきます。
丸岡ひろみ
国際舞台芸術ミーティング in 横浜 ディレクター
PARC – 国際舞台芸術交流センター 理事長