先般の震災と原発事故の経験は、私たちの社会に対する信用を総じて覆しました。信用とは「計算」あるいは「コントロール可能性」のことです。コントロールできないのは資本主義や放射性物質だけではなく、私たちの生命も人間関係も同じである…私たちは生まれたときから受動態であるということに、改めて気付かされたわけです。主体的な能動性から客体的な受動性へ。計算された構築から不確定な生長へ。個々バラバラに受動態で生まれてきた私たちが、他者と連結し、どのように、うまくやりながら生きていけるのか。破局が潜在する不確定な社会でどのように共同性を育んでいけるのか。そうした「生命」と「関係」に対する受動性、それを前提とした「生」の行方、「分断」と「共同」についての考察になるような作品を選びました。
TPAMディレクション
ユニークな活動を行なっている若手制作者をディレクターに選任、自由なコンセプトと新たな視点で作るプログラム。それぞれのディレクションを通して同時代的アイデアや課題を共有し、ともに舞台芸術の可能性を考察する機会です。
野村政之
(こまばアゴラ劇場 制作)
1978年長野県生まれ。公共ホール勤務を経て、こまばアゴラ劇場・劇団青年団に在籍。並行して若手演出家の活動に様々な形で参加。ドラマトゥルクを担当したままごと『わが星』(2009)、サンプル『自慢の息子』(2010)が岸田國士戯曲賞受賞。他に岡崎藝術座『(飲めない人のための)ブラックコーヒー』(2013)制作、蓮沼執太+山田亮太『タイム』(TPAM2012)プロデュースなど。
蓮沼執太
範宙遊泳
はたして「踊り」や「ダンス」は、どこから立ち上がるものだろうか。何を根拠に。それらは、いつ始まりいつ終わるのか。誰のために存在するのか。そして、どのような形式を見せる、または見せないのか。今回のディレクションでは特に以下の3つの視点に注視したいと思います。まずは、「踊り」や「ダンス」が、その土地の文脈、例えば、気候や風土、歴史、教育、宗教、家族生活といったような事と密接に関係し合いながら生成される表現であるという視点。また、<日々の営みにおける一つの必然>、<人々/ルーツ/共同体をゆるやかに接続するもの>、<劇場等で見せる行為>としての「踊り」や「ダンス」を行き来する表現であるという視点。最後に、「踊り」や「ダンス」は変容を繰り返しながら(日々の営みが綿々と紡がれ続けるように)終わりのないプロセスを重ねることに開かれた構造をもつ表現であるという視点です。
横堀ふみ
(NPO法人 DANCE BOX プログラム・ディレクター)
1978年奈良県生まれ。1999年よりDANCE BOXに関わる。2006年度文化庁新進芸術家国内研修制度研修員。2008〜2009年ACC(Asian Cultural Council)のフェローシップによりアジア6カ国とNYで舞台芸術の実態調査を実施。Art Theater dB神戸を拠点に「ダンス」「地域のコミュニティ」「劇場」を結ぶプログラムを試行しながら、主にアジア間におけるネットワークの構築を目指している。
筒井潤+新長田で踊る人々
ショーネッド・ヒューズ
過去2回のディレクションではSTスポットでは出来ないプログラムを実践し、今回は自身のホームグラウンドにてその在り方を再考します。というのも、STスポットは極めて小さな「劇場」で、十分な空間や、設備は最小限のものしかありません。ここで表現者は徹底的に自己と向き合い、空間をコントロールする術を獲得し、応用し、次に作品が求める空間に旅立って行きます。時にこの空間に戻り、自身の立ち位置を確認します。その循環が表現者の糧となり、鍛錬の場となり、場の価値を創造します。私たちは日々、その場に立会い、刻々と変化していく様を見守ります。干渉しすぎず、突き放さず、基本的には全肯定です。この場だけでは価値を即断できないからです。しかし、プログラミングにおいて一つの方向性を提示することは可能な限り行っています。その判断は経験や情報ではなく、直感とその直感を裏切るものを両方内包しているものではないかと考えています。
大平勝弘
(STスポット 館長)
1971年大阪府生まれ。大学助手、専門学校講師を経て、2006年より「STスポット」勤務、「急な坂スタジオ」立ち上げに参画。2008年よりSTスポット館長。コンテンポラリーダンスを中心に公演企画、及び若手アーティストの育成、観客創造のためのワークショップ構築に従事。また近年はアーティスト・イン・レジデンスなどの国際交流事業も手がける。
伊藤キム × 山下残
酒井幸菜 × 白神ももこ
2013年、私の出会った「演劇」は《日常》の中にありました。人がそこで生きるという事、その中に「物語」はあり「演劇」はあります。そんな当たり前の事を思い出させてくれたのは、瀬戸内国際芸術祭に参加するため訪れた小豆島での生活でした。光、音、海、風、港、島、人、空間、時間。「演劇」と出会うこと、それは久しぶりに会った友人と写真を撮った時の気恥ずかしさだったり、デートでお気に入りの服に袖を通したときの高揚感だったり、満員電車の中でTwitterから流れてきた言葉に心安らぐことだったり。そんな何でもない《日常》の中に紛れ込んでいるものだったりします。そして、そこで生まれた感情はすべて世界と《関係》を持つということで生まれたものです。2014年、私が出会いたい「演劇」は《関係》の中にあります。今回は、写真、衣服、言葉の展示を介して《関係》から生まれる「演劇」を立ち上げたいと思います。
宮永琢生
宮永琢生(制作者・プロデューサー)
1981年東京都生まれ。企画制作・プロデュースユニット「ZuQnZ(ズキュンズ)」主宰。2007〜2011年、劇団青年団にて本公演および関連公演の制作に携わる。2009年に柴幸男と共に「ままごと」を起ち上げ、製作総指揮&プロデューサーを務める。他に黒川深雪(InnocentSphere)とのユニット「toi(トイ)」のプロデュース、音楽ユニット「□□□(クチロロ)」のライブ企画制作など。